ごまだれ

感じた想いを書き残す場所

シーザリオ実装で予感する『ウマ娘で2020年ジャパンカップが描かれる日』

まえがき

2022年に発刊、頒布した同人誌『ごまのうま本 vol.1』で執筆した「2020年11月29日がウマ娘で描かれる日」というコラムを公開いたします。執筆時期は2022年7月中旬で、内容についてもその時のものになります。

gomap.hatenablog.com

当時ウマ娘を遊んでいる中で2020年ジャパンCを描く事は一つのゴールなのではないかと考え書いています。コラムの後にも今回のシーザリオ実装で色々書いたりしていますので、ぜひご覧ください。

 

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「2020 年 11 月 29 日がウマ娘で描かれる日」

 今回の本(ごまのうま本vol.1)の発行を計画した当初に私が書こうと考えていたこの記事の内容は
「2021 年の競馬がウマ娘で語られる日」というものだった。
 ソダシ、エフフォーリアら若い力の躍動、コントレイルの三冠馬の名誉を懸
けた戦い、クロノジェネシス、グランアレグリア、ラヴズオンリーユー、マルシュ
ロレーヌらの黄金世代の牝馬の結末は、リアルタイムで見届けた競馬初心者の
人達の心に深く刻まれたと思うし、そんな馬達がウマ娘に実装されたら、過去
の競走馬が実装された時に悲鳴を上げている私たちの様にいくらでも思い出を
話せるはずなのだ。


 しかし、今回の文章を書くことにしようと決めた出来事が 6 月下旬に訪れた。
ウマ娘スイープトウショウの育成実装が発表されたのだ。彼女は 2000 年中
盤に活躍し G1 を 3 勝した馬で、その中にはエアグルーヴ以来の牝馬による中
長距離の G1 勝利となった宝塚記念が含まれていた。
 調教拒否や度重なるゲート再審査などの脆さを持っていた彼女だったが、同
時に併せ持っていた強烈な末脚に私は魅了された。今まで数多くの馬を見てき
たが、彼女は特別な気持ちにさせてくれる馬の 1 頭だった。ガチャ予告の時点
から、彼女に対しての思い出があふれ出して止まらない ...... そんな存在だっ
たスイーピーを、引かないわけにはいかなかった。

 ガチャ更新当日、昼間に引けてプレイしている人の漏れ聞こえてくる感想や、
彼女の育成シナリオに出てくる馬たちの名前を聞いて更に期待は高まった。そ
の日の夜、無事 200 連で彼女を迎え育成した。
 スイープトウショウの育成シナリオは、ウマ娘のシナリオで一番好きになる
ほど素晴らしかった。アニメ 3 期やメインストーリーで描かれていてもおかし
くないという程、完成されていた。


 彼女のシナリオは、牝馬が牡馬と互角に渡り合えるはずがないと思われてい
た時代に宝塚記念を勝利したことが起点となり、世界中で牡馬を凌駕する牝馬
が続々と現れ始めた 2000 年代後半の歴史をベースにして作られていた。

 彼女の気性の難しさは、ウマ娘の世界で「常識に囚われない確固たる信念を
持っている性格」と解釈され、「ティアラ路線出身のウマ娘は 3 冠路線のウマ
娘に勝てない」という常識をトレーナーとともに宝塚記念で打ち破り、「ティ
アラ路線のウマ娘でもやれる」という新たな常識を打ち立てる胸を熱くするス
トーリーだった。

 その一連の流れは”魔法”と表現され、その意志はウオッカやダイワスカー
レットに受け継がれ、最後のシーンではスイーピーは大好きなグランマにその
魔法の成長を見守るようにと言いつけられた所で締められた。


 つまり、スイープの物語で描かれたのは彼女だけの物語ではなく、現在まで
続く強い牝馬が当たり前に存在する時代の幕開けを告げる大長編の序章だった
のだ。
 キャラデザの時点で競馬おじさんたちを唸らせただけではなく、ストーリー
でも唸らせる物が出てくるなんて、と感銘を受けた。460 ㎏台の決して小さく
はない馬体だったにもかかわらず、ウマ娘内での彼女の身長は、430 ㎏台だっ
ニシノフラワーに次ぐ小ささ (139cm) だったことも、彼女の設定を踏まえて
敢えてそうしているのだろう、つくづく神がかっている ......


 その後、私自身が感じた興奮を他の人がこのどう考えているのかが知りたく
なり、ネットでの考察やニュイ・ソシエールさんの育成配信などを見て思案を
していく中で、ふと一つの仮説が浮かび上がってきた、いや、むしろ幻覚なの
かもしれない。
 それは、現時点でウマ娘が最も描きたい出来事は 2020 年 11 月 29 日に開催
された第 40 回ジャパンカップなのではないのか、という仮説であった。
 もっとも、このレースは日本競馬史上においても歴史的なイベントだったの
で、ウマ娘が続いていけば描かれない理由がないのではあるが、スイープの育
成ストーリーの完成度、宝塚記念後に描かれた話を考えると、ウマ娘運営が
2020 年ジャパン C を描くための布石を今のうちに丁寧に打っているとしか思えないのだ。
 そして、ウマ娘がどうしてもその話を描きたいと思っている理由も存在する
はずなのだ。それは、ウマ娘のアニメ 2 期とアプリ版のリリースが僅かに間に
合わなかった、という理由だ。


 競馬を見ている大多数の人間にとって、2020 年のジャパンカップほど「競
馬を知らない人でもこのレースだけは何としても見てくれ」と思った事はな
かったレースだった。
この年はデアリングタクトが史上初の無敗牝馬三冠、コントレイルが親子 2
代での無敗三冠、2018 年の牝馬三冠馬アーモンドアイが天皇賞 ( 秋 ) で日本調
教馬初の国際 G1 の 8 勝目を達成した。3頭の三冠馬が現役だったのは日本競
馬史の中のこの時だけだ。その三冠馬 3 頭がジャパンカップで対決をしたのだ。

 

 アーモンドアイのラストランは香港と思っていた中での出走表明、しかも
Twitter の動画投稿での発表に、タイムラインは沸き返った。
 それは強い馬づくりを目的として設立され、外国馬に全く歯が立たなかった
1981 年の第 1 回ジャパンカップから始まる 40 年にわたる日本競馬の歴史の到
達点と言えるようなレースといっても過言ではなかった。レースの結果もアー
モンドアイが G1 勝利を 9 勝に伸ばす有終の美を飾り、三冠馬 3 頭のワンツー
スリーとなったことで名実ともに日本競馬の歴史の 1 ページとして語られる日
となったのだ。

 この日の事を SNS で日本競馬の最終回と呼ぶ人もいたが、自分もまさに同じ
ような事を考えていた。そして、この日から日本競馬の新章が始まるのだろう
という予感を感じていた。
 このように、競馬好きのオタク達は 2020 年に奇跡のような出来事を経験し
てしまったのである。2021 年を迎え競馬への注目がどんどん高まっていくた
びに、「もしウマ娘のリリースがあと 1 年早ければこのジャパンカップの事、
その日に至るまでの事を体験できたのに」という事を私を含めた多くの人が頭の中に思い浮かべていたし、恐らくウマ娘の運営もそう思っていた事だろう。
 結果的に 2021 年からの競馬が 2020 年にも負けない様な事ばかり起きている
事は嬉しい誤算であった。


 ここまでなぜ私が長々と 2020 年のジャパンカップに至るまでの事を書いて
来たのかというと、実はその物語をさらに楽しむための前日譚として存在する
のが、スイープトウショウが " 魔法 " をかけた 2005 年の競馬だったのだ。
 今の競馬に繋がる非常に重要な時代であり、そこで繰り広げられたドラマが
コントレイル、デアリングタクト、アーモンドアイに繋がっていったのだ。こ
れはまさにブラッドスポーツと呼ばれる競馬の醍醐味と言えるだろう。
 2005 年にスイープトウショウが " 魔法 " をかけていたその頃、ターフでは
コントレイルとデアリングタクトの血統表に存在する 3 頭の競走馬がクラシッ
クの舞台を駆け抜けていたのだ。


 1 頭目ディープインパクト。衝撃の末脚で史上 2 頭目の無敗の三冠馬とな
り、日本近代競馬の結晶と呼ばれた。
 競走成績だけではなく、日本生まれの種牡馬として最も成功した馬であった。

 2 頭目シーザリオスペシャルウィークの産駒としてオークスを制覇した
後、米国に遠征しアメリカンオークスも制した。
 これは日本調教馬による初の米国の G1 勝利だけではなく、父内国産馬とし
ても初の海外 G1 勝利でもあった。当時、賞金とは別に奨励金が出るほど地位
が低かった日本生まれの種牡馬の産駒から遂に海外 G1 を勝つ馬が現れる歴史
の始まりも 2005 年だったのだ。


 3 頭目デアリングハートキャリアで重賞を 3 勝を挙げた彼女はシーザリ
オらと鎬を削り、桜花賞ラインクラフトと共に桜花賞 3 着から NHK マイル C
に挑み 2 着の成績を残した。 2017 年、その血を受け継ぎ 2020 年に歴史を打ち立てた馬たちが生まれた。
ディープインパクトから生まれたコントレイルは父に続く無敗の三冠馬とな
り、シーザリオの血を父エピファネイアから、デアリングハートの血を母から
受け継ぎ生まれたデアリングタクトは史上初の無敗の牝馬三冠馬となった。コ
ロナ禍が影を落とした世界で生まれた 15 年越しの物語に大変感動した事を記
憶している。


 当時の私はここで 15 年越しの物語が完結したと思っていた。しかし、ウマ
娘のスイープシナリオによってその物語は実はもう 1 つ存在していた事に気づ
かせてくれたのだ。
 2005 年が強い牝馬の時代の幕開けを告げた年という解釈を与えてくれた事
と、「 “魔法”の行く末を最後まで見届けるように」というグランマの言いつ
けによって、その 3 つの物語の到達点が 2020 年のジャパンカップだった事を
浮き彫りにさせてくれたのだ。
 競走馬スイープトウショウはその直後の 2020年 12 月 5 日に亡くなっている。
その事実を解釈しストーリーに鮮やか取り入れる手法に私は震え上がった。


 そして、スイープのシナリオ内でもアーモンドアイの存在を感じさせる描写
が描かれていた。スイープの魔法によって「ティアラ路線出身者からシンボリ
ルドルフの G1 勝利記録を塗り替えるウマ娘が現れても夢じゃないですよね」
とファンの人が語ったその存在は、アーモンドアイに他ならなかった。


 だがウマ娘の運営の打った布石はこれだけに終わらず極め付けに、ゲームに
実名で登場していないウマ娘を敢えて登場させる事で、アーモンドアイの母親
であるフサイチパンドラの存在を仄めかして描く離れ業をやってのけたのだ。
 「水色リボンのウマ娘」として登場するヤマニンシュクルは、序盤はスイー
プのライバルとして登場し、宝塚記念後にはカワカミプリンセスの進路妨害に
よって走る事が怖くなってしまったウマ娘として再登場した。この話を何としても描きたいのだという執念を感じた。
 この話の元になったのが 2006 年のエリザベス女王杯だ。カワカミプリン
セスがフサイチパンドラスイープトウショウに 1 馬身半差をつけて優勝し
た ...... と思われたのだが、直線で斜行しヤマニンシュクル接触、バラン
スを崩したシュクルは競走生命を絶たれてしまうケガを負ってしまい大敗、カ
ワカミも 12 着に降着となってしまった。
 その結果、2 位でゴールしたフサイチパンドラが繰り上がりで初の G1 勝利
を手にした。


 実はこの勝利がアーモンドアイが生まれる要因になったかもしれないのだ。
フサイチパンドラの G1 勝利はこのレースだけだったため、もしこの勝利がな
ければ繁殖牝馬としてのランクが下がっていたはずだからだ。
 最強スプリンターとして鳴り物入り種牡馬入りしたロードカナロアの初年
度の配合相手は当然いい繁殖牝馬を選びたいはずである。当時、活躍する産駒
を輩出できていなかったフサイチパンドラロードカナロアが選ばれた基準の
1 つが「G1 馬だったから」という可能性も否定できないのだ。
 タイムマシンが無いので確認する事などできないのだが、あの降着の有無で
本当に歴史が変わっていたかもしれないのだ。


 このような理由から、牝馬の時代の幕開けをベースとして描かれるスイープ
シナリオにおいて、アーモンドアイが登場するためにカワカミとシュクルの事
件は存在しなければならないのだ。シナリオ内ではその事件に正面から向き合
い、スイープとともにその問題を乗り越える if を描いたのだと想像した。
 読めば読むほど、スイープトウショウの育成シナリオは完成度の高さに驚か
され、唸らせられた内容であった。
 以上が現時点のウマ娘が最も描きたい出来事が 2020 年のジャパンカップ
あるという仮説に対する妄想のような考察である。


 正直、この話がウマ娘で描かれるのはかなり先の未来になるはずであり、描かれる時が来たとしても、それは 2005 年のクラシック世代の話が描かれた後
になるだろう。しかも物語を描く上で実装されなければならないディープイン
パクト、シーザリオ、コントレイル、デアリングタクト等、多くの馬がまだ 1
頭もウマ娘に実装されていない馬主の所有馬である。


 越えなければならないハードルはたくさんあるが、いつの日か 2005 年から始
まり 2020 年に結末を迎えた大長編の物語がウマ娘で描かれる日がが来た時、ど
れほど嬉しいと思うのかは想像できないし、TV アニメシリーズのように多くの
人が触れる事の出来る環境で描いてほしいと願わずにはいられない。
 そして、この行く末を見届けるために長生きをしたいと思えるほど競馬は一
生モノの趣味である事を声を大にして伝えたいのだ。


2022/07/20 追記
 ・・・・・・ とこんな事を書いていたら、最終章後編でデアリングタクトと思われ
ウマ娘が出てきてしまった。月末のぱかライブ TV で発表されるのだろうか?
この本が出る 8 月 13 日には既に答えが出ているはずだが、ここまで書いてき
た「その日」がウマ娘で描かれる時は、私の予想より早く訪れるのかもしれない。
 そして嬉しいこともあった。ウマ娘から競馬に入った人たちが「デアリング
タクトが! ? 」と盛り上がっている様子を見れた事だ。なぜなら、この様子
こそがあの手この手で競馬を布教してきた私たちが、ウマ娘と競馬を絡ませて
楽しんでいた様子と同じ事だったからだ。
 この楽しみ方を味わって欲しいからこそ、競馬を見てほしかったのだ。
 幸運なことに、彼女は来年も現役続行の予定だ。2020 年 11 月 29 日の主役
の 1 頭だったデアリングタクト ( ※まだ分からないが ) が紡ぐ物語を見る事が
できる――――。
 そう、「まだ間に合う」のだ。

 

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あとがき

ご覧いただきありがとうございました。

 

シーザリオ登場は本当に、突然すぎて仕事が手に付かなくなるほど驚きました。

 

まさに晴天の霹靂という言葉が当てはまるシーザリオウマ娘化の発表ですが、キャロットクラブの公式サイトでウマ娘シーザリオの特集ページも組まれていたり、細江純子さんのウマ娘1期アニメで解説役の声優を担当された時の裏話が公開されたりしていて、さらに驚いたりしています。キャロットの会報の発行に合わせての発表だったんですね。

 

それにしても3周年を前にしてのシーザリオ発表は目玉でもいいレベルの馬を最初に発表するのなら、もっと凄い隠し球の新発表があるんですよね?という期待をせずにはいられないですね。

 

自分が競馬場で現地観戦出来するようになった時期と重なったり、シーザリオは自分が競馬を見始めた年のダービー馬スペシャルウィークの産駒だった事もあり血統のドラマを強く感じた思い出の1頭です。ディープインパクトに対しては本当に世界で一番強い馬なのではないかという期待を持つほど夢を感じていました。

 

その夢は時代とともに受け継がれ、今週ロンジンのワールドベストレースホースでイクイノックスが1位、ジャパンカップがワールドベストレースで1位となり、世界から数字の上で日本競馬が世界一の評価を受けました。

 

そういう縁のあるタイミングでのシーザリオの実装に対しては、先ほど公開したコラムに書いたように将来的に2020年ジャパンCが描かれたらいいなあと思わずにはいられない喜びでした。

日本競馬の今に繋がる特異点となった時代を擬人化大河ドラマ的にウマ娘で熱く見せてくれることを願っています。ディープやラインクラフト出たりしないかなあ〜!