ごまだれ

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『舞台「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters' Story~』で蘇ったケイエスミラクル、彼に起こった3度目の奇跡

『舞台「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters' Story~』の初日の昼公演と配信された最終公演を見てきました。

 

残念ながら16日~26日までの公園が中止が発表され公演期間が少なくなってしまいましたが、27日より再開され先日千秋楽を迎えました。

当初の上演回数を公演できない関係者の方の無念さは計り知れないですが、無事再開できた事が不幸中の幸いでした。

 

 

予想以上

出演者の皆さんのパフォーマンス、とっても素晴らしかったです。

内容についても、1991年の短距離路線をベースに、ウマ娘ダイタクヘリオスダイイチルビーヤマニンゼファーそしてケイエスミラクルの4人がそれぞれ背負った宿命や使命に悩み、向き合いながらレースを駆け抜けていく王道のストーリーでした。

 

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会場となった品川ステラボールに入って真っ先に思ったことは、舞台との近さでした。

自分は1階の後ろから2列目だったのですが、客席は段差が作られていて、ステージまで15m程度の距離でした。アリーナクラス以上の会場で行われるウマ娘のライブよりも出演者さんとの距離がかなり近く、肉眼で表情を確認できました。その時点で満足度の高かったのですが、公演内容も現地だから分かる凄さがありました。

その凄さを強く感じたのは音の演出についてです。レースシーンはどの様に表現するのかと思いましたが、タップダンスという形に落とし込んだのは面白いなと思いました。競馬でも10数頭の馬たちが蹄でコースを蹴り上げて駆け抜けていく時の音は予想以上に大きいんですよね。そして低音の鳴りが凄かった。席が揺れるほどの低音で表現される演出もあり、配信ではわからない身体で感じる表現方法も舞台にはあるのだなと実感をしました。

レースシーンの背景ではLEDでゲームで使われている競馬場の3DCGを用いられており、レースへの没入感を高めていたと思います。自分は少し後ろの席に座っていましたが、おそらく前列の中央で見ていた人はレース全体を正面からドローンカメラで見ているような感覚になって没入感がさらに大きかったのではないかと思いました。

 

少し角度はナナメですがこれに近い感覚で見れていたのではないでしょうか。

 

蘇ったケイエスミラクル

ここからはあまり書いている人がいない競馬的な観点からこの舞台を見て感じた事を書いて行こうと思います。

この視点から舞台を振り返った時に強く感じたことは、この舞台の最大の功績は忘れ去られつつあったケイエスミラクルが30年強の年月を経て令和の時代に蘇った事だったと思っています。そう強く感じるに至ったエピソードがあります。

そう強く感じたのには理由があります。91年の競馬をリアルタイムで見ていた競馬仲間ですらケイエスミラクルの事は記憶から抜け落ちていたようで、発表された時に大変動揺していた姿を見たからです

 

自分は「そういえばそんな馬いたなあ」という程度だったので、なぜそんなに動揺していたのかが分からなかったのですが、こちらの記事を読んだ時に納得しました。

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馬なり1ハロン劇場」の時代からヘリオスルビーというカップリングが盛り上がっていたけど、ルビーを語る上で欠かせない馬が実はいたのだという事を知りました。

つまりダイイチルビーの発表で『ウマ娘内でもヘリオスルビー恋物語」という過去最高に盛り上がっていた競走馬カップリングの続きが見れる』と喜んでいた所に「君たちこの馬のこと忘れてない?」という公式からの予想外の一手だったようなのです。

運営の「ヘリオスルビーの物語を過去の歴史を受け止めながらもあくまでウマ娘としての彼女たちの話を描いていく」という宣言に対して「俺たち浮かれてたよな」という競馬仲間の動揺だったのかもしれません。

 

描かれた裏のテーマ

なので、自分も舞台を見る前にそんなケイエスミラクルウマ娘に実装させて何を描くのだろう?彼が帰らぬ馬となったあのスプリンターズSで何を描くのだろうと思っていました。2時間の観劇が終わり、描かれた彼の史実に基づいた蹄跡から感じられたことは、ケイエスミラクルという競走馬が忘れ去られるには余りにも惜しい馬であった事を出演者の熱演で理解できたという事でした。

舞台名こそ「Sprinters' Story」と複数形になっていますが、ウマ娘運営の裏のテーマにはヘリオスルビーに隠れる形になり埋もれていたケイエスミラクルに再び光を当てる「Sprinter's Story」を描くというテーマも含まれていたのではないかと思って仕方がないのです。

なぜなら、彼の血統やキャリアを振り返った時に、この馬は日本スプリントの黎明期に時代を先取る形でターフを駆け抜けて行ったスペシャリストのスプリンターだったということを舞台を通じて91年を擬似的に追体験する形で感じる事ができたからでした。

 

スプリンターの先駆者

そして「Sprinters' Story」の副題を見た時に「とはいえヘリオス、ルビー、ゼファーは短距離馬だったけどスプリンターというよりはマイラーだよな…」という印象だったことも大きかったです。彼らは2000mでの勝利、好走歴もありましたからね。当時はスプリンターズSがG1になったばかりで、高松宮杯はまだ2000mのスーパーG2で、スプリント重賞も少ない時代でした。スペシャリストのスプリンターが生まれるには数年後のサクラバクシンオーまで待つ必要がありました。

 

舞台を見た後にウマ娘に実装された直後に競馬仲間であるレスター伯さんがケイエスミラクルの血統を解説してくれた配信を改めて見返しました。当時も語っていましたが舞台を見たことで語られている「ケイエスミラクルの血統構成は日本でG1を勝ってゆくことになるスプリンターの血統の先駆け的存在」だったという事が非常に腑に落ちる事になりました。

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そしてその血はそれまでの日本競馬にほとんど入ってきていなかったMr.Prospectorの血でした。父系では主にキングカメハメハ、母系ではコントレイルの母父で有名なUnbridled's Songなどを通じて今の日本競馬、世界の競馬にも欠かせない血を持つ馬が91年に存在していた事も驚きでした。

そしてこんなifを考えるようになりました。それはもしケイエスミラクルが91年のスプリンターズSで勝っていたら、後年に日本のスプリント史の転換点になった馬として語られていたのではないかというものです。そして、今の時代にこんな馬が現れていたら人気になっただろうなあという事も感じました。

わずか3万米ドルで買われ日本に輸入されて、デビューさえ危ぶまれる健康面での不安を抱えながらも、3歳春の新潟でデビューを迎えた馬が3度もレコードを叩き出しで重賞勝ち馬になり、G1に手が届きそうな競走生活を送っている

冷静に考えて、多分現役時代にもケイエスミラクルのファンは結構いたと思う程の経歴なんですよね。そんな馬がいろいろな理由で埋もれていた…。G1を勝っていない事も大きかったと思いますが、こういう馬達は私が競馬を見始めてからも数多く存在しています。

 

3度目の奇跡

ですので、ケイエスミラクルがこういう形で現代に”蘇った”ことは、彼に起きた3度目の奇跡だと言っても過言ではありません。血を残せず時代に埋もれていく運命だった彼に「おかえりなさい」と言いたくなるほど、魅力的な馬だったという事がわかったのですから。こういう馬を改めて知ることができたウマ娘のパワーが凄いなあと改めて感じます。

 

ウマ娘は競馬の大河ドラマ

長々と語ってきましたが、競馬歴約25年の私にとってウマ娘の大きな魅力はこんな風に競馬の史実を元にして描かれるストーリーだと思っています。その要素を抽出して、競走馬を擬人化して展開される群像劇は大河ドラマのように、歴史モノのドラマや映画を見ているような気持ちになるんですよね。語られ続ける事で彼らが例え寿命を迎えたとしても、魂は生き続けるんですよね。

 

リアルタイムの追体験

それがリアルタイムの競馬を追体験しているような感覚になるんですよね。実際の競馬でもnetkeiba等の競走成績だけでは分からない「このレースとこのレースの間には実はこういう事があって…」みたいな物語はどの馬にもあって、特にウマ娘のアニメ、舞台、シンデレラグレイの漫画を読んでいると、その過程が実際の競馬を追って体験する感覚と似ているような感じがするんです。だからウマ娘という擬人化された史実ベースのフィクションでも彼らが生きていた息遣いを感じられるような気がして、現実感を持って見ることができるんだなと感じています。

 

競馬体験と結びつく

 

そしてそれが自身の競馬体験と結びついてしまう時があるんですよね。

最終公演後の挨拶で佐藤さんが「91年当時にただいまって一番言いたかったのはミラクル自身だったと思うし、皆さんが一番おかえりって言いたかったと思う」と言っていたのですが、その言葉が私の胸を打ちました。当時の関係者やミラクルファンの計り知れない悲しみと同時に、自分のなかで今の競馬とリンクしてしまい、一番「おかえり」って言いたい馬としてピクシーナイトの事が思い浮かんできて仕方がなくなってしまいました。

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彼はグラスワンダーキングヘイローサクラバクシンオーの血を引いていて、2021年に3歳でスプリンターズSを勝ち、モーリス産駒初のG1馬となりましたが、次走の香港スプリントで多重落馬事故に巻き込まれてしまいました。どう見ても助からないと思う程の悲惨な事故でしたが、彼の骨折は大事に至らずに奇跡的に生還を果たし、1年2ヶ月の休養を経ていよいよ復帰戦を迎えるところまで来ています。

 

 

彼が競馬場に戻って来る時に「おかえり」と言える日を楽しみにしているのと同時に、無事にキャリアを終えて欲しいと強く願っている馬の1頭になっています。

 

4名のメインキャストについて

ここからはキャストさんの感想を書きながら舞台の感想をまとめていこうと思います。

その名を体現したダイタクヘリオス

舞台で特に目を見張ったのがダイタクヘリオス役の山根さんがとにかくステージ全体を動き回っていたことです。キャラ的にもパリピギャルのヘリオスがステージを明るく照らしていました。他の3名と比べて動きが多い役ということもこの強烈な印象を際立たせていました。舞台の中でも喩えられて来ましたが、まさに彼女は太陽とも言える存在でした。

 

華麗なる一族ダイイチルビー

演劇中にミュージカル的に歌う場面での歌唱力は素晴らしかったです。改めて配信でも見たのですが抜群に歌が上手かった。

自分はこの動画で彼女の歌唱力の知っていたので、ダイイチルビーのCVとして礒部さんが発表された時には納得しかなかったのですが、華麗なる一族という当時の日本で一番良い血統といってもいい競走馬ダイイチルビーのバックグラウンドを体現されていたと思いました。脚本の人と話し合って役についての理解度を深めていた事を最後に知り、だからあそこまでのルビーを演じられていたのかと感じました。

 

ヤマニンゼファー

今泉さんにとっての初の舞台はゼファーに先立って活躍をしている3名を見守る立場としての役回りを見事に演じられていました。

よく考えたらミラクルだけではなく、ルビーやゼファーも脚元や体質に問題を抱えていた馬だったという事を舞台で改めて感じながらみていました。

特に舞台中にミラクルの体のことを心配するシーンは印象に残りました。

 

今泉さん本人も「出番が少なかった」と話していたようにヤマニンゼファーはこの舞台で描かれた翌年から能力が開花することになるので、無茶を承知でゼファーにスポットを当てたお話とか見たいですね。マイルの皇帝から生まれた、まだ誰も成し遂げていない3階級G1制覇に最も近付いた馬のストーリーは絶対面白いと思うんですよね

舞台第2弾とかやってくれませんかね…。

 

ケイエスミラクル

ケイエスミラクルは既に色々書いてしまったのですが、最終公演の配信で見た舞台の後半でミラクルがG1に懸ける想いを吐露する場面では佐藤さんが役に極限まで溶け込んだ結果、涙ぐみながら演じられていました。「この身がどうなってもG1を勝ちたい」の言葉には舞台が中止していた時の「何としても再開したい」という想いも乗っかっているようで、胸をじーんとさせながら見ていました。

おわりに

今回の舞台、未知な事も多かったと思われる中で、満足度がかなり高い公演を見ることができました。本当に一時中止になったのが悔やまれます。将来的にリベンジ公演とかやってほしいと感じたり、別の登場人物で第2弾とかを期待したくなりました。舞台にすることで焦点を当てる時代を1年間という短いスパンで描くのに強いと感じました。もしまだウマ娘になっていない馬も含めて舞台の第2弾が見れるとしたら、自分はラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌの2021年のBC挑戦のテーマで見てみたいですね。ゲームの仕様的に海外を描く事が大変そうなので、それに縛られない方法でウマ娘という競馬の大河ドラマをこれからも描き続けて欲しいと感じました。